ペンタセン薄膜の熱電性能
熱電発電に用いられる熱電変換材料には、ゼーベック係数(熱起電力)と電気伝導率が高く、熱伝導率が低いことが求められます。そのような材料として、従来は無機物が研究対象とされてきましたが、我々は低分子有機物に注目して熱電特性を調べています。低分子有機物は、熱伝導率が低く、軽量で柔軟である特長を持っていることから、薄膜化することで高性能のフレキシブルな熱電デバイスを作製で
ペンタセンはキャリア移動度が高いことから、電子デバイス用材料として期待されている低分子有機物です。 高いキャリア移動度は、ペンタセン分子のπ電子雲が隣接するペンタセン分子と重なっていることに起因しています。 このπ電子雲の重なりはペンタセンの結晶構造に依存します。 ペンタセンは薄膜にすると、右図のように薄膜相とバルク相という2種類の結晶構造をとることが知られており、第一原理計算からπ電子雲の重なりは薄膜相の方がバルク相より大きいことが報告されています。 このことから、ペンタセン薄膜は薄膜相の方が電気伝導率が高いことが予想されますが、薄膜相とバルク相の電気伝導率の詳細な調査は行われておらず、またそれらのゼーベック係数もわかっていませんでした。
我々はガラス基板上にペンタセン薄膜を成膜しました。 その結果、成膜時の基板温度と膜厚に依存して薄膜内の薄膜相とバルク相の比率が連続的に変化することがわかりました。 薄膜相とバルク相のいずれのペンタセン薄膜もキャリア密度が低いため、電気伝導キャリアをドーピングする必要があります。 ペンタセンのドーパントとして知られているハロゲンやアルカリ金属のうち、我々はヨウ素を使用してホールキャリアをドーピングしました。 予想した通り、電気伝導率は薄膜相の方がバルク相より高い一方で、ゼーベック係数は薄膜相とバルク相でほぼ同等の値を示し、ヨウ素ドープしたペンタセン薄膜はこれまでに報告されている低分子有機物の中で最も高い熱電性能を持つことを明らかにしました。