部分置換したMnSiγの熱電性能
熱電変換材料のエネルギー変換性能を表す指標として、無次元性能指数ZT(=S2T/ρκ)が用いられます。 ここで、S、T、ρ、κは、それぞれゼーベック係数(熱起電力;温度差1K当たりで生じる起電力)、絶対温度、電気抵抗率、熱伝導率κです。 ゼーベック係数が高く、電気抵抗率と熱伝導率が低いほど、性能は高くなります。 MnSiγはZT=0.28(at 800 K)を示す比較的性能の高いp型の熱電変換材料ですが、実用化のためにはZTを1以上に向上しなくてはなりません。
ZTを向上するためによく用いられる手法がキャリア(ホールあるいは電子)のドーピングです。 MnSiγでは、遷移金属1原子当たりの価電子数(VEC)が14よりも小さければp型、14よりも大きければn型となり、各々14からの差が大きいほどホールあるいは電子のキャリアの量は多くなります。 我々は、MnSiγのp型性能を向上するために、Mnより価電子が1つ少ないCrでMnを部分置換したMn1-xCrxSiγを合成しました。 その結果、Crの固溶限界である20%程度まで、Cr置換量の増加にともなって[Mn]部分構造と[Si]部分構造の非整合比が増加していくことが明らかになりました。 また、Mn1-xCrxSiγのVECがCr置換量の増加にともなって減少することから、確かにホールをドーピングできていることがわかりました。 Cr置換によってホールキャリアが増加したため電気抵抗率は大きく減少し、p型の性能をZT=0.45(at 900 K)まで向上することができました。
なお、我々はMnより価電子が1つ多いFeでMnを部分置換したMn1-xFexSiγも合成しています。 Mn1-xCrxSiγと異なり、Mn1-xFexSiγでは、Fe置換量の増加にともない[Mn]部分構造と[Si]部分構造の非整合比が減少しました。 また、Fe置換量の増加にともなってVECは14よりも大きいn型の領域まで増加し、電子がドーピングされたことが確認できました。 Fe置換によってn型にすることができましたが、n型の性能はZT=0.071(at 644 K)であり、p型、n型ともにZTをさらに向上するための研究を進めています。